シルバー人材での労災適用提訴は氷山の一角

シルバー人材センターに関しては、このブログでも何度も取り上げさせていただいている。ここでのトラブルは数多いが、不思議に法的に改善されたとの具体的な報告がない。確かにトラブルを避けるために最低賃金ぐらいは守られているとの話も聞くが、それすら具体的な指導がされているわけではないようだ。全国で78万人の会員がいるというが、65歳までの雇用継続が法制化された場合に、どうなるのだろうか。また、退職後、国保では保険料が高額になってしまうために、自分も含め協会けんぽ等の「継続」で対応している方も数多い。シルバー人材センターにおける仕事は生き甲斐であって「労働」ではないとの理屈がまだまかり通り、また「使用者」と「業務」が毎日のように変わる中で、労災の適用にならない問題について、もう一度訴えたい。原告側は「高齢者の就労環境が変化しているのに国会が立法を怠った。社会保障をうたった憲法に違反する」と主張している。それでは、この議論の発端となったニュースを紹介。ただ、視聴者はこの記述で「内容」をきちんと理解できただろうか。

シルバー人材 保険適用求め提訴(NHK 9月26日)
 シルバー人材センターの会員のお年寄りが、作業中にけがをしても保険が適用されず、全額自己負担になるのは不当だとして、保険の適用を求めて大阪地方裁判所に訴えを起こしました。
 厚生労働省は25日、この問題を解決する方針を示しましたが、原告側は裁判を進めながら国の対応を見守りたいとしています。
 訴えを起こしたのは、奈良県内に住む70歳の男性の家族です。男性は3年前、シルバー人材センターから委託された作業中に足の指の骨を折る大けがをしましたが、センターの作業は「業務」にあたり、男性が入っている娘の会社の健康保険は適用できないとして、治療費など85万円あまりを全額支払うよう求められているということです。
 訴えの中で男性側は、老後の生きがいなどのために行っているセンターの作業は「業務」にはあたらないと主張し、健康保険の適用を認めるよう求めています。
 業務中のけがであれば、一般に労災保険が適用されますが厚生労働省は、「会員はセンターと雇用関係にない」として、労災保険の適用も認めていないため、男性と同じ立場の会員は、作業中にけがをしても保険が適用されない状態になっています。
 この問題について、厚生労働省は25日、1か月以内をめどに保険が適用されるよう結論を出す方針を示しましたが、原告の弁護士は、「法律が変わらなければ同じような立場の15万人の会員が救済されない」として、裁判を進めながら国の対応を見守りたいとしています。


注目される裁判であり、すでにこの問題については濱口桂一郎さんがきちんとブログの中で指摘している。
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/09/post-7419.html
文中の小宮山・前厚労大臣の記者会見発言の役人答弁には呆れたが、後段の解説部分だけ紹介。

>実を言うと、労働者じゃない人が健康保険に入っているために労災が全額自己負担になってしまう事態というのは、会社役員などについて存在していて、それが問題になって、部分的に解決していたことがあるのです。
 わたくしの講義用資料からその部分を引用しますと、

・・・なお、戦後労働者災害補償保険法の制定とともに、健康保険は業務外の傷病に限ることとされた。もっとも、国民健康保険は引き続き業務上も対象に含めていたので、給付水準が低いことを別にすれば特に問題はないとも言えた。ところが、1949年7月、厚生省から法人の代表者又は業務執行者であっても、法人から労務の対償として報酬を受けている者は、法人に使用される者として健康保険の被保険者とする旨の運用通知(同月28日付厚生省保険局長通知)が発せられた。このため法人代表者は医療保険上は労働者として業務外の傷病について高い給付水準を享受できることとなったが、労災保険上は労働者ではないためその給付を受けられず、かといって国民健康保険には加入していないのでその業務外傷病給付を受けることもできないという、いわば制度の谷間にこぼれ落ちてしまった。これまで労災保険の特別加入という形で対応されてきたが、2003年7月になって、5人未満事業所の代表者には業務上の傷病に対しても健康保険から給付を行うこととなった。・・・

 少し説明を付け加えますと、戦前は使用者の労災補償責任は工場法で規定していましたが、それを担保する公的保険制度は、私傷病と一緒に健康保険で面倒を見ていたのです。健康保険も国民健康保険も業務上外両方やってたのです。
 戦後、労働基準法とともに労災保険法が作られ、「労働者」の「業務上」傷病はそっちで面倒見ることになり、「労働者」の「業務外」は健康保険、「労働者以外」の「業務上外両方」は国民健康保険という分担になりました。
 ところが、「労働者以外」でも「健康保険」という人がいて、その人が「業務上」傷病になることはありうるわけです。
 対応策は、制度の基本構造を変えない限り、「労働者じゃないけど特例で労災保険で」とするか、「業務上だけど特例で健康保険で」とするしかないわけですが、より根本的に考えるならば、そもそも労働者であろうがなかろうが業務上災害というのは起こるんだから、労災保険のカテゴリーを思い切ってあらゆる業務に拡大してしまうというやり方もあり得るかも知れません。現在は特別加入というやり方で任意にやっているのを、義務化するという発想です。
 まあ、今回はそういうでかい話にはならないでしょうが。


とにかく、ソクハイ事件などで注目をあびた「個人事業主」問題でも、菅野和夫先生でさえ「INAXメンテナンスの労働組合法上の労働者性は裁判で結論が出ましたが、労基法上の労働者性かどうかはわからない」と、ある研修会で言われたことに慄然とした。ソクハイ事件では、「連合」の要請を受けて、厚労省が「労働者である」との判断を行い、労基法上の労働者として労災適用を通達として指示している。にもかかわらず、会社は個人事業主に固執し、組合つぶしの争議は継続中だ。そして派遣法の隙間をかいくぐるように、異様な「働き方」がどんどん拡大している。シルバーに限らず、早急にきちんと法的措置が取られるよう、「連合」を含め、関係者の努力を期待したい。とにかく、民主党政権である間に進めて欲しい課題が山積している。

最後に、北海道新聞の社説を紹介して終わる。この社説を見て、このブログでも取り上げることとした。この視点が必要なのだが…。何度も指摘するが、きちんとした労働組合のある企業は、メディアを含め信頼できる。…ということは、ほとんどの企業は信用できないことになる…言い過ぎか。とにかく、シルバーにも労働組合が必要だ。退職され、センター会員となった活動家の努力に期待する。地域密着型だし、面白いと思うのだが。

シルバー人材 働く高齢者を守りたい(北海道新聞社説 10月4日)
 シルバー人材センターで紹介された仕事中にけがをしても、労災保険や健康保険が受けられない―。厚生労働省は、こうした人を救済できるよう制度を見直す方針を決めた。
 保険の不備は30年ほど前の発足当初から指摘されてきた。厚労省がその検討を先送りしてきたとすれば、行政の怠慢と言わざるを得ない。
 人材センターは高齢者の生きがいづくりを目標に設けられた。いまや老後の糧を得る場にもなっている。 道内ではこれから冬囲いや除雪などの仕事が増える。万一の備えが不十分なら、安心して働けない。早急に結論を出し、実施に移すべきだ。
 厚労省によると会員数は全国で約78万7千人。道内では約1万8600人が登録しており、そこから仕事を請け負う形で職場に派遣される。
 問題は、会員は人材センターや発注者と雇用契約がなく、労働者と見なされないことだ。このため、業務中にけがをしても、保険料を雇用主が負担する労災保険の対象とならない。
 国民健康保険は給付の対象にしているが、組合健保や全国健康保険協会健保(協会けんぽ)は業務中のけがを想定しておらず、被扶養者でも治療費は自己負担になる。
 こうした人たちは約15万人にも上る。負傷の程度によっては多額の自己負担を強いられる民間の傷害保険に頼っているのが現状だ。
 厚労省は「あくまで生きがいづくり」として請負契約に固執してきた。だが実態は、派遣先の指示を受けたり、工場やスーパーで社員と同じ仕事をしたりする例が多い。労働者と認めない理由はない。
 兵庫県では会員が指を切断した事故をめぐり、神戸地裁が2010年に「会員と仕事先には実質的な使用従属関係がある」として実質的に労災を認定する判決を出している。
 多くの専門家は、労働者である以上、業務中にけがをすれば、労災を適用するのが当然だと主張する。労災は医療費の給付だけでなく、障害補償や遺族補償などもあり、健康保険より手厚い補償が受けられる利点がある。妥当な考えだ。保険料の負担方法などを検討し、労災を適用するのが現実的である。
 制度の谷間に置かれているのは高齢者だけではない。学生のインターンシップ(就業体験)や障害者の福祉作業所も同様の状態にある。
 契約の違いだけで、業務中に事故があった場合の対応が異なるのでは働く人の理解は得られない。
 高齢化の進展で社会はお年寄りの技術や経験、労働によって支えられている。実態に即した救済策を急いでもらいたい。


なお、参考になるかどうかわからないが、自分のブログもひとつ掲げておく。
http://53317837.at.webry.info/201010/article_2.html

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